夜中にサイが突然嘔吐した。あかんぼうというのは日常的に嘔吐するものだけれど、今回のはそれとは全然違う、おとなみたいな本格的なやつだった。間接照明の薄暗いリビングでサイドからの光を浴び目を見開いて吐くサイの姿はホラーみたいだった。はじめてのこと。はじめてのことはわからない。どうなるんだろうと恐怖で震えた。熱はない。でも明らかに異常。病院に行って診断してもらう。その間にも吐く。胃腸の風邪という診断だった。点滴の管を刺してつながれた小さな手がかわいそうで涙がでた。トシオも仕事を切り上げてかけつけてくれる。夜中の2時。蛍光灯が光る病院には救急で運ばれてきたほかのこどもたちもいた。小さなあかちゃん、小学生、身長180cmくらいの中学生みたいな男の子もおなかを押さえて寝ていた。それぞれの親が心配そうに手を握っておなかをさすって、こどもを見守る。ぶじに生まれてきて、ぶじに育っていくって、あたりまえのことのようで、なんて尊いことなんだろうって思う。
きのう一日はゆっくり様子を見た。今朝になってサイはもう、元気いっぱい。たくさん飲んで、たくさん遊んでいる。大声で歌うみたいに。あたりのものをブルドーザーみたいにぐちゃぐちゃにしていく。いつも通りの姿。よかった。3人で笑った。そしたらまた泣ける。
こうやって、小さな大事件を積み重ねて、あたしたちはどんどん家族になっていく。