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不吉なメッセージを浮かばせてマックくんはあっさりと記憶を失った。あたしの膨大な記憶とともに。生まれたてのベイビーのようにつるりとデフォルト状態に戻った彼を見つめてしばらく立ち直れない。前のマックから引き継いでいた大量の思い出がぜんぶぜんぶぜんぶ宇宙の塵に。
(あ、お仕事のデータはバックアップあるので全然大丈夫です)
泥棒に入られたひとのきもちってこういうことなのかな。何もないデスクトップを見ながら思う。からっぽの部屋みたいで無限の可能性を感じなくもない。捨てるに捨てられなかったあんなものもこんなものも、もう、ない。どこにもない。なんにもない。何もないから一から始めることもできる。理想のみで満たされた美しい世界へ向けて。ややムリヤリっぽいけど。
でも、でも、この妙な裸一貫的なすがすがしさはなんだろう。さわやかですらある。すべてを失うというのは身軽になることではある。心もとないけどもうかなしんでも仕方ないのだ。これもここ最近の解毒週間の流れだ。きっとそうだ。どんどんシンプルになっていくのだ。こんな大いなる力による予期せぬ強制的かつ試練的なプロセスも含め。
あ、でも、あたしと写ってる思い出写真等をお持ちのみなさま、どうぞメールで送ってください。ここ5年くらいのスウィートメモリーズのほぼすべてが消えました。脳だけに頼るにはあまりにもこころもとないので写真がほしいです。このこぼれ落ち失い続ける記憶を助けるために。
とてもよろこびます。おねがいします。