だいじな友達たちが本を出しました。
三保航太さんとはらだゆきこさんのコラボで
『僕とうつとの調子っぱずれな二年間』というタイトル。タイトル通り、ミヤスさんがうつ病と診断されてからの二年間をはらだゆきこ(a.k.a.はーぴー)のマンガと彼の文章で綴ってあります。
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本の紹介をする前に突然だけれど、実はあたしはポルトガルから帰ってからの数日間、じぶんが「あたまがおかしくなった」のではないかと思っていたのです。渋谷の駅前を通過すると人々の同じような流行の服が(そう、服が)話しかけてくるような気がして。あらゆる色と文字と人工物で囲まれた街が大声をあげているような気がして。お願いですうるさいから静かにしてください!って思っていた。景色に。音じゃなくて目に映るものがうるさいから耳をふさいでも聞こえるし目を閉じたら歩けないし、打ち合わせに遅れちゃうし、すごい、ここは魔窟だって思った。人々が話すうわさ話、本音を隠したうその声、週刊誌の見出しの悪意に満ちた文字、テレビで流れるエゴの波、毛穴から入ってくるそんなものたちにもこてんぱんに打ちのめされそうだった。帰って2日目にどうしても用があってでかけなくてはいけなかったのだれど、あたしはスクランブル交差点でぐらんぐらんと全身が揺れて、ほんとうにしゃがみこみそうだった。おそろしくて魔窟を歩くときは大音量でグレゴリオ聖歌だけを聴いてできるだけそういう「おそろしい」ものを見ないように聞かないように、していた。こわいこわいこわい。どうやってこんなところであたしは楽しく暮らしてたんだろう、ってわけがわからなく思いながら。こういうの、あたまがおかしいひとって言うひともいるでしょう?
でもあたしの免疫機能はみるみる働いて、あたしの表面にかつて持っていたバリアを取り戻し、一週間であたしは元の東京にんげんに戻った。復活。旅で全身を解放したまま戻ってきたあたしは、自分の中に取り入れる情報を取捨選択する「弁」みたいなものを大幅にゆるませていたのだと思う。見なくていいものは表面ではじけるように戻ったし、理解できないひとびとのことは半透明な存在として通過できるようになった。だいすきなひととかものたちが群衆の中できちんとくっきり見つけられるように、戻った。あぁよかった。
でも、その一週間、あたしはそんな症状がほとんどのひとには理解されないものなんだろうなとうすうす知っていて、ほんとうに限られたひとにしか言えなかった。「マルキューの服が話しかけてくる」って言われても、ねぇ。転んでケガをして血がだらだら流れていたらひとびとは同情してくれるけれど、こころが血を流していてもたいていのひとには、ぜんぜんわからないものなのだ。こころの話だけでなく、痛みとか苦しみとかは同じ経験を持ったことがないひとには、想像したってぜったい、わからないのだ。あらためてそう思った。
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前置きがすごーーく長くなっちゃったけど、ミヤスさんは最初にも書いたようにあたしのだいじなともだちで、そしてあたしと同じ種類のにんげんだと思っている。見た目だときっとまったく別のカテゴリーに入っちゃうんだけど。同じ晴れた空を見て同じように泣いちゃうひとだと思う。なんでそれで泣いてんの? ってひとびとに軽く笑われながら泣いちゃう「ナイーヴな」あたしたち。好奇心旺盛で感動屋で純粋なミヤスさんはこどもの心をそのまま仕事にして音楽業界でずっときらきらとした目で働いていた。うそが全然なくて、いつもいつもおどろくほど新鮮な感動にぴかぴかに包まれていたミヤスさん。まだぴよぴよのひよっこだったあたしの写真を見て「俺、ナカマサの写真ほんとに大好きだよ」って目をうるませて言ってくれた彼にいつも励まされて、あたしは調子に乗ってここまでこれた気すらしている。そういう意味では、フォトグラファーであるあたしの恩人でもあるのだ。
そんな彼がある時うつ病と診断されて、それから二年間、自分のやり方でその「壊れたアンテナ」を調整しながら光の方向にはいあがって、走る、話。はーぴーのイノセントなタッチのマンガは彼の雰囲気をすごく上手に表していて(ふだんはーぴーはイラストレーターなのでこれは初マンガ。とてもそうとは思えない出来!!)すいすい読める。彼女はミヤスさんの最も親しい友人のひとりで病気のあいだもさりげなく支え続けていたから描けたのだと思う。とてもよい関係。一時は本も読めず文字など書けなかった彼が誰にでも起こりうるうつという病気とのつきあいをこんなふうに客観的に本にできるようになったことを心からうれしく思うし、尊敬する。ほんと、がんばったね。
彼は毎日、走った。欠かさず毎日。はじめて会ったときムーミンみたいだなと思ったぽっちゃりな(ゴメンね)ミヤスさんは毎日10km走ったこの日々で20kgも体重を落とし、彼の敬愛する村上春樹さんと同じような日焼けした肌、そげたほほとキレイな筋の脚を持つようになった。自分の力でつけたその筋肉で、彼はそのやわらかな魂を守る力も手に入れつつあるのだと、思う。そして僕は完治した、なんていうわかりやすいハッピーエンドじゃないこの本は、それでもリアルに、同じ症状に苦しむひとびとに希望を与えると思う。その症状を持たないひとにすら、あるひとりのにんげんが自分の暗闇と闘う姿の物語として何か強いメッセージを送ると思う。世界と自分とのつながり方は誰もが模索することだと、思うから。それをミヤスさんとはーぴーならではの、ポップなやり方でこの本は伝えると思う。読みながら何度も、あたしは胸がぶわんと熱くなった。
ミヤスさんは最後に書いている。
「ちょっとぐらい調子っぱずれでもいい。僕たちに未来はある」
出版、おめでとう!!!
明日には本屋さんにも並ぶと思います。ぜひぜひ手に取ってみてください☆