サイをだっこして近所を朝から散歩。むしむしして南国のようだね、タイには水かけ祭りっていうのがあってみんなびっしょびしょになるんだよ。へんな色の水を飲んでカメラぬれてこわれちゃったけどおもしろかったよ。そんなことを話しながら歩く。
ふと。前からあやしくふらふらとこちらへ向かう自転車が。ふーらふらと酔拳のごとき動き。あーーまずい。あぶない気がとってもする。運転するのはけわしい顔つきで肘を突っ張らせながらハンドルを握りしめるおじいちゃん。目が合う。目が離せない。ぜんぜん離せない。
きききききーーとけたたましいブレーキの音をたてながらおじいちゃんは、あろうことかあたしとサイに向かってまっすぐに突進してきたのだ。(たいしたスピードじゃないけど)そう、あたしは重要なミスをおかしてしまった。こういうふらふらチャリのおじいちゃん/おばちゃんとは決して目を合わせないこと。じゃないと彼らはますますてんぱっちゃうから。これはベーシックルールナンバー1なのに!サイの5cm手前まですべりこむおじいちゃんのチャリのかご。そして怒鳴りまくるおじいちゃん。「なにしてるんだ、あぶねーだろ!」サイに物理的危険がここまでせまったのは初めてだったので激しく動揺していたあたし。ちょっとちょっとそれはこっちの台詞よ。怒鳴るおじいちゃんについ100倍返しで何かを言おうとしてしまう。
でも。ダメダメ。ダメだマサコ。そうじゃないはずだ。イージーイージー。カームダウン。
生まれてからもうすぐで3ヶ月のサイはめくるめく愛のワンダーランドに生息している。彼をとりまくものは愛しかない。家族、ともだち、彼と目を合わせるにんげんたちはみんな愛で彼をつつんでくれる。サイはそれを疑うこともなく受け止め完璧な安心の中にいる。(ように見える)
大人になってからもずっとずっとそんなワンダーランドに住めたらどんなにかいいだろう。ふわふわのぴかぴかの世界に。でも、きっと、いつかリアルワールドに出てくる時が来る。おとぎの国にいなかった登場人物もでてくるかもしれない。はげしいできごともあるかもしれない。でもそんなときのベーシックルールをサイに教えられたらいいなと思う。あたしもまだトライしている途中で、今日みたいなときはうっかり忘れそうになる、たいせつなルール。
それは「あたえたものはかならず返ってくる」という世界的に有名なあのルール。天に向かって唾吐く者は‥という話でそれを教えたネイティブアメリカンのひとたちを始め、古今東西のひとびとがいろんな形で伝えてきた話。あたしも日々、肌で感じてきたルール。じぶんのまわりを見渡すと世界はじぶんの手渡してきたものでできていることがよくわかる。誰のせいでもない、じぶんの責任で選び受け取り、切り取ってきた世界。怒りや悲しみやうらみやねたみや。そんなものをもう誰にも渡したくない。できるだけ。それがじぶんにもし向けられてきたら、もう、ここで止めてここを最後にして蒸発させてしまいたい。できるだけ。
手渡すものはもう、愛と光と感謝だけにしたい。できるだけ。
ぐるぐる回り続ける完璧な愛の循環。あたしとサイのあいだに今あるものはまさに、それだ。これを拡大して虹色の広い広い世界を作れるだろか。できる気がする。やってみる価値はすごく、ある。