せっかくのお休みなのに朝早く目がさめてしまってどうしても眠れない。『一人でできるポルトガル語』を本棚に取りにいったら、別の本にどうしても目がいく。山崎ナオコーラさんの『人のセックスを笑うな』。タイトルがちょっとすごいので、買ったものの寝かせておいたのに、なぜか朝の7時にあたしをすごく呼んでいた。最初の1ページを読んだらすごくしっくりきたのでお風呂で読み始める。
気づくと1時間で読み終わっていた。じわじわと衝撃がからだに響いていく。すごい簡単な言葉でつづられたすごい短いこの小説はとても濃い短編映画を見たみたいに映像をアタマに強く残し、あたしはぼけっと本を濡れないように持ち上げたままずっと天井を見ていた。気がする。
あたしにとってのすごい音楽やすごい小説、すごい映画、すごいアートの定義はこういうこと。何を見たのか、何を聞いたのか、具体的にはほとんど何も思い出せないのにからだに震えがずっと残る。においや光や手触りとして。そしてしまい込んでいたはずの記憶がどうしようもないくらい吹き出す。つぎつぎに。
恋でも旅でもほんとうに個人的なこころの震えの経験をあたしはどんなに近いひとにもうまく伝えられていない気がする。そのかけらくらいをかろうじて伝えようと努めているけれど。でもこの小説にはその、とても個人的な部分が、まるごとある。おどろくほど淡々としたやり方で、読み手を動かす余白を持って。最後にはまるで自分も何かを失ったかと錯覚させるくらいに。ほかのひとにはどうでもいいディティールをもって、読むひとそれぞれがかつて痛めた胸のどこかにいつのまにか触れる。揺り動かす。
すごい。
とても個人的であるということは、一番強い普遍的な力を持つということなのかもしれない。
山崎さんが個人的に書いたかどうかはわからないけれど。
こういうチカラのある作品をあたしも作りたい。
そしてあたしは建国の記念日をお祝いするよゆうもないまま、明日の夜中にものすごくキレイな顔の男の子を撮影して、少し眠ったあと夜明けの飛行機に乗って沖縄に行くのです。
とても東京なスピード。でも、たのしみ。